あべこべ


雪が積もる。

「…あ、ほら、雪で野菜やられたらいけんし。な?」

ふと思い出したこと。雪の重みで種が潰れたり芽が出なくなってしまうと困るから、ちょっと行ってビニールを被せてやろうというだけで、そのためにはまず俺の腹の上に被さっている虎鉄に退いてもらう必要がある。

「あの、猪里さん」
「何ね」
「この甘〜い雰囲気で、それでは愛し合いましょうとでもいう時に、お野菜の心配でしょうKa」

予想通り、虎鉄はいつまで経っても退こうとしない。急に発情したトラに押し倒されてから数分、服まで脱がしかかった状態ではそう簡単には逃がしてくれないだろう。この2年間で俺が虎鉄の行動に関して得た知識をひけらかすなら、だいたい強引に攻めてくるか、言葉で引き止めるかの二択だ。

「猪里にとってはオレと愛を確かめ合うことより、野菜のが大事なのかYo」
「わりと」

即答すると返事は返って来なかった。
変な間を置いて一度だけ口を開いたが、少し考えると何も言わずに溜息を吐いて虎鉄が立ち上がる。おや、と思いながら続けて俺も上半身だけを起こすと、虎鉄は謝った。

「さっさと行ってこいYo、猪里の野菜を助けてやるんだRo」

ああ、また。俺のことを一番に考えようとする時の目。こういう時の虎鉄はいつもの我が儘が控えめになり、俺の言うこと、することを優先するようになる。
優男め。
俺もひっそりと溜息を吐いた。

「…行かないのKa?」

ふん、と外方を向いてもう一度横になる。
いつもみたく、そんなもんどうでもいいって言ってくれ。野菜の方が好きだなんて、照れ隠し以外に何だってんだ。こういう時に限ってどうして無理矢理してくれないのかって、余計恥ずかしくなった。