通り雨


今日は確か降水確率も低かったから、きっと雨なんて降らないだろう。そう思って悠々と傘を持たずに家を出たのに、夕方の帰り道。猪里と二人歩いていたら、ぽつりと冷たい感触を頬に感じて薄暗い空を見上げた。
最初は気の所為かとも思ったのだけど、猪里が顔を顰めたのを見て、それはやがて確信に変わった。それから小降りの雨が降り出したのはほんの数秒後のこと。
慌てて近くの公園に駆け込んで、屋根のついた木造のベンチへ止むまでの間と雨宿り。今日はひどく運が悪いなと腰を下ろした。

「こん空やったら、そげん長くは降らんと思うけん」
「暫く待っても止まなかったら、最悪走って帰るかNe」
「降るとは思っとったばってんなぁ」

やれやれと苦笑しながら降り続く滴を眺め続ける。少しの間はくだらない話題をぽつぽつと話していたが、ふと会話が止まった時、猪里が俯いて目を伏せた。本人に他意はないのだろうけど、それがとても、雨と似合った横顔で。
何故だかあまりに、せつなくて。

「猪里」
「うん?」

顔を上げた猪里の顎を捕えると、口付けた。猪里の目が驚く。一瞬戸惑い躊躇したように眉を寄せたが、頭の後ろに手をやると、大人しく目を閉じてくれた。
それでもすぐには離さず、徐々に深く深く、永遠とまで思わせるように。

今日はひどく運がいい。
真っ赤になる彼の唇を漸く離す頃になって、…ああ。雨は止んだ?