04, 溜め息で殺した


昨日、虎鉄が見ていたテレビドラマを思い出す。それは確かベタな恋愛もので、嫌いなわけではないけれど自分からは見ない類だった。
思い出せばそうだ、物語はクライマックス。俺は途中の話を知らないで見ていたけれど。主人公とヒロインが雨の中、涙ながらに再会して、もう離さないよなんて言って、抱き締めあって。


「猪里?」

虎鉄が鍵当番を任されていたから、部室を出るのは俺達が最後だった。人の居なくなった室内で荷物を片付ける手が止まっていたから、不思議に思って声を掛けたんだろう。しかし、たったそれだけのことなのに、恋愛ドラマのことを思い出していた俺はびくっと身体を揺らして驚いてしまった。

「…驚かせたKa?」
「あ…ごめん」

自分でも、手が止まる程何をそんなに考えていたのか不思議なところだ。
確かその後、主人公とヒロインは抱き締めあった体を離すと目を合わせて、キスをして、二人同時に、愛の…

「また手、止まってるYo」
「…え、」
「何か悩みでもあんNo?」

愛の、告白をする。

「…なかよ」
「本当?」
「なかけん、行こう」
「おう」
「心配、ありがとうな」

ぼそ、と呟けば後ろの虎鉄が笑う。これくらいなら、俺にだって言える。

あれからまた少し考えて、俺はあのシーンを無意識に、自分達と重ね合わせてしまっていたことに気付いたのだ。否、別にあんな別れ方も再会のし方もしていないし、雨の中抱き締めあったこともないし、あんな恥ずかしい告白もしあっていない。
…ただ、台本に書かれている台詞を読むことすら、虎鉄を前にするだけで一気に無理難題と化したから。二文字、或いは五文字、それだけのものを自分はどうして口に出来ないのか。

試すように口を開いて、呼び止めた虎鉄がすぐ振り向いたけれど、ほんの3、4秒で諦めたように溜息を吐いてすぐ、何でもないと掻き消してしまった。



2008年頃