03, …おまえなんか。


虎鉄がまた性懲りもなくマネージャーに声掛けるのは、最早日常と思って気にしないようにしている。極力視線を反らすようにしていれば、そのうち構って欲しくてこちらに寄ってくるからだ。
(その度に不本意ながら、良かった、と安堵の溜息を漏らしたりもする。)

何だかんだ言って俺は素直になれない天邪鬼だってだけで、本当はいつだって隣にいて貰いたいのだけど、それを言ったらあいつは調子に乗るから言ってやらない。
…なんて、そんな言い訳も随分と多用してきたわけで。
だって言ってやらないわけではなく、単に自分が恥ずかしいだけだからだ。

それでも時々愛しくて愛しくて堪らないことがあって、ボールの一点を見つめる真剣な目にもバットを振る姿にも見入ってしまう。油断してその視線が絡んでしまえば、随分と嬉しそうな顔をして笑うから、

「あれ。惚れ直した?」
「するか、アホ」
「つれないNe、オレは猪里が見ててくれたってだけでベラボーに嬉しいんだけどSa」

にやにやと自信たっぷりに言う虎鉄からまた、目を反らしてやる。そう、それ、その自信は一体どこから?
俺はこんなにも不安になるのに、八重歯見せて笑う様が羨ましくて狡く思うんだ。
おまえなんか。…おまえなんか。


2008年頃