02, 辛くなんかない


「Hey、彼女。景気はどうですKa?」

俺が飼っているこの虎はどこにいても誰といても、自分の好みの女を見付ければすぐ声を掛ける奴だ。
その度に俺を悩ませているのも知らないで、そうですやきもち焼いてます、いつも俺だけ見ていて欲しいです。
自分だって独占欲は強いくせに、虎鉄はいつも狡い。現に今も、明日は休みだから久々にデートでもしようぜなんて調子いいこと言いながら、数十秒後にはこれだ。

「可愛いNe、驚いたZeこんなとこで君みたいな子に会えるなんてSa」

この台詞は、前にも聞いた。第一その彼女が先輩だって可能性もあるのに、気にせず口説き始めるのもどうかと思う。
頭の中で必死に毒づくけれど、実際の俺は知らないふりして突っ立ったまま動けない。このまますたすた先に行ってしまえばいいのだけど…ああ、もう放っておこうか。

「うん、君のそんなとこも、好きだZe」

背を向けた耳に聞こえた声は、どうしても俺に苛立ちしか与えてくれなかった。

(もし俺が虎鉄の腕引いて、俺だけ見てって言ったら、絶対応えてくれるんやろな)

それが出来ないから、溜息吐いて毒づいて嫉妬するしかない。それがとても悔しくて、本当はとても、

(…辛くなん、ない。)


2008年頃