「あの、あのな虎鉄、いくらなんでも真昼間からこげんくっつきようのはどうかと、聞いとう?」
「聞いてるZe」

旧校舎と隣接して繋がる渡り廊下、既に昼休みも終わって授業の本鈴が鳴り、更に5分程した頃。
ここを通る可能性があるのは、俺達と同様にしてサボタージュを選択した生徒くらいじゃないだろうか。
ああ、でもそれを口に出したらこの子は怒るんだろうな、数学に気が乗らないと言ったのは自分なのに、授業に出なかったのは上手いこと言ってここまで連れてきた俺の所為にするんだろうな。
そう思いながらも口元が緩むのを隠せない。どうにか表情の見えるところまで肩を引っぺがした猪里が、どうにも締まらない表情を見て呆れた顔をした。

「気持ち悪い顔すんな」
「自分の彼氏にそんなこと言うなYo」

また抱き締めようと腰を引き寄せれば、両手で体を押し返してくるわシャツを掴んで引き離そうとするわ。
煩く騒げば静粛かつ平穏に授業を進めている教室まで声が届き兼ねないことを気にしてか、猪里はさっきから極力静かに、そして冷静に抵抗をしてくる。
その所為でキスをしようと頬を撫でてもすぐ顔を背けられるし、地味に進展のないまま5分が過ぎている。
このまま思い切り押して壁に追い詰めてしまってもいいだろうか。
でも、極力優先したいのは無理矢理でなく優しく、本人が「流された」と思ってくれるような…優しいのが理想で。うん、そう、乱暴に押し込めるんじゃない。ときめかせて骨抜きにさせて「しょんなかねえ」って思って欲しいんだ。
だけれど。
一筋縄じゃ行かない俺の恋人は、今日ばかりは流石にそう簡単に落ちてくれない。

「Na、猪里、時間勿体ないって」
「俺には今すぐ終業ベル鳴って欲しいんやばってん」

どうにもこうにも。
仕方ない。
一度ぱっと体を離して、突然の開放に気をとられた猪里の体をぐるんと一回転させると、今度は後ろから抱き込んでそのまま壁伝いに座り込んだ。
案の定離れようと、猪里の腹の前で組んだ手を掴んで抗議してくる。極力静かに。

「もう、やけんっ、俺は…」
「OK、もう変なコトしないYo。でも俺は猪里とくっつきたいので、授業終わるまでこのまま」
「…は、」
「どうせ今からなんて特別することもないだRo?抱き締めてるだけなんだから、これくらいいいよNa」

肩に顔を埋めて大人しくなってやれば、気の抜けたようにすとんと収まった。
が、心なしかそわそわしているのも、困ったような表情になっているのもお見通し。
猪里はそういうコトをされるのも、ただ距離が近いだけでこんな空気になるのも、どちらも同じくらい恥ずかしがるから、 このまま抱き締め続けていつ頃猪里の限界が来るか、少し楽しませて貰おうと思う。
手の平に感じる鼓動が速くなってくれば、俺の勝ちで。


08/08/07