「守るとか守られるとか、そういうんじゃなくってSa…」

すっかり日の落ちて人のいなくなったグラウンドを眺めて、虎鉄が言った。 部活が終わる時間というのはいつも夕方を過ぎた頃で、それでもこの季節にはまだ昼間とも思えるような明るさだった。 鍵当番の俺が最後に部室を閉めてから、一度校門を出た足で虎鉄が部室に置き去りにされた財布の存在を思い出さなければ、 俺達はこんなところにいないでさっさと帰ってシャワーを浴びていた筈だ。
二度目の鍵閉めを確認して振り返ったら、急に虎鉄が立ち止まるから、俺も立ち止まった。

「こう…何Da、二人で一つみたいな?そういうの、あるじゃん?」
「あー、うん」

肩にかかった通学鞄を直して、虎鉄に並ぶ。夕日って程でもないけど、これから沈もうとしているのが分かる程度の太陽が目の前にあった。 じっくりと瞳に焼き付けながら、でも別にメンタルな気分になるってワケでもない。
風がない分昼間よりは幾分かマシになった気温が肌を撫でる。 早いところ汗を流したいとは思っていたが、どうしてか動こうとしない虎鉄に合わせて俺も動こうとしなかった。 適当に相槌を打てば一瞬視線が合った気がしたのに、虎鉄はすぐ空を仰いで少しだけ声を大きくした。

「守られんのは嫌、ゴメンDa。でもオレが全部お前守んのもキツいだRo」

虎鉄が腕を伸ばして背伸びをする。
誰も守ってくれなんて言ってない、自分の身くらい自分で守れる、といつものように反抗しようと口を開いたのだけど、 虎鉄が今言いたいのは多分そういうことじゃないんだろうと思い直して、吸い込んだ息だけを吐き出して終わった。

「俺やってそうばい」
「そもそも野球って、全員が力合わせNeーと勝てないワケだし」
「ばってん俺はな、虎鉄とやったら、どこでも行けるけん」

ぐぐーと伸びていた腕が緩んで、今度はしっかりとした視線を感じた。でも今度は俺が空を仰いで視線を合わせようとしなかった。 別に今の発言に他意なんてない。率直にそう思ったから言葉にした。それはもう常日頃から、俺の相棒、お前しかいないって過信してる。
それは全体の息を合わせて動く練習試合の最中も、何も言わなくたって通じる「そこのスポーツドリンク取ってくれ」とか、弁当の食べ方ですら、何から何までお前と二人セットで動きたいと思っているからだった。
こっちを見つめたまま何も言わない虎鉄がやたら鬱陶しかったので顔を合わせてやったら、

「プロポーズの台詞みたいじゃNe?」

にやにやと色男のくせしてだらしない笑み浮かべて、それはもう嬉しそうに言ったバンダナ頭を思い切り叩いてやる。 言葉にならないような短い叫び声を上げて、頭を抑えながらその場にうずくまった男を置いて回れ右、すたすた歩く。

俺達は男だ、どうせなら背中合わせに戦いたい。


07/08/15