一言で片付けるとするならば、彼はとても鈍いのだ。それこそ恋愛の"れ"の字も知らない幼稚園児並。
俺の場合、彼に出会う前から今までも数々の女を相手にして恋愛には長けているつもりなのだけれど、 神が居るというのなら、アンタって人は俺と全くの正反対な人間だなんて面倒なことをしてくれた。

「猪里、オレの瞳にはもうオマエしか映らない…」
「眼科、行け」
「…少しは可愛い反応返して下さいYo」
「男の俺に言う台詞やなかね」
「まあ、そう言うとは思ってたけど」

鈍感なのか確信犯なのか、境目がよく判らない恋人を持つとなかなか苦労するのだが、恐らく前者。 軽い女には腐る程吐いてきた自慢の台詞も、彼だけには敵わない。 どうしたらアイツは俺の台詞に酔ってくれるのだろう。それもあの九州男児に限って有り得ないことではあるのだが。
しかし、それ以外にも簡単に気持ちが伝わる言葉というものもあることを、ナンパな言葉で埋めつくされた脳では気付けなかったのか。 口説き文句にこだわりすぎて忘れていた、実に簡単な一言を。

「そんなとこも好きだYo、猪里」

小洒落た台詞も言っていないのにいきなり顔を赤くさせた彼を見て、思わず首を捻ってしまった。 恋愛に長けてるふりして、意外と鈍いのは俺の方かもしれないのだ。


05/10/21