聞き覚えのある音楽が聞こえた。
音源を辿れば簡単なこと、そいつの部屋の棚の上に置いてあった電気機具を見つける。
そのまま視線を落とせばこの部屋の主が、丁度そのCDをかたりと閉じたところだった。
「猪里好きだRo、コレ」
最近の音楽には疎い。とても。
彼がいつも聴くようなCDは全て、鼓膜が破れそうな程の大音量だと俺は思うのだ。
英語混じりのラッパーがドラムとギターに巻き込まれて歌う音楽はあまり好む方じゃない。
きっと都会者の虎鉄はそんなCDしか聴かないのだと思っていたのだが、先日ここへ来た時に流れていたBGMはそんなものじゃなかった。
静かに流れるその曲調に少しの間聞き惚れてしまって、虎鉄の声で我に返ったことがある。
「ああ、こういう曲も聴くんやねえ、虎鉄」
「そりゃあ、オレだってずっとシャカシャカやってるワケじゃありませんYo」
失礼極まりない、と頬を膨らました虎鉄に苦笑してみせると、そのCDをずいと差し出されたので思わずまばたきをした。
放り投げられたガラスケースを慌てて受け取ってから、もう一度彼を見遣る。
「…何?」
「やるYo、オレもう何度も聴いたし」
あまりに唐突なことで、戸惑ってしまった。
このCDが一枚抜けても虎鉄のCDボックスにはあまり変わりがないのだけど、
それでも人に物を貰うということが習慣的ではない俺は、ケースのどこかに表記されているであろう値段を無意識に探してしまう。
暫くしてから虎鉄が眉を顰めて、視線を逸らして、目を凝らしていなければ判らない程に頬を染めた。
意外な一面を知る。
「…お前の為に買ってきたんだからNa」
俺は、前にもこの曲を聴いたことがあったのだった。
その時は確か一言、良い曲だとぽつりと漏らして、それだけのことなのにしっかりと覚えられてしまっていたらしい。
ああと、思い出す。あの時の虎鉄の嬉しそうな顔はこういうことだったのだろうか。
それが彼の気付いた最初の恋心だった。
05/10/02